建設業許可の要件
建設業では資材の調達などの工事着工までの準備費用や継続して工事を施工するためにある程度の資金を有している事が必要となります。このため、建設業許可申請では工事の適正な施工や発注者の保護のために最低限必要な経済的水準として”財産的基礎がある”ことが求められています。
建設業を営み工事を施工するには、資材の購入や労働者の確保や必要な工事機械器具等の購入など多額の資金が必要です。
また、一旦受注したにもかかわらず、経済的基盤が弱いため工事半ばで事業活動が中断されるようなことがあれば他の業種よるも社会的な経済損失額が非常に大きくなるのが建設業の特徴です。
そこで、建設業許可ではその取得に”財産的基礎や金銭的な信用がある”ことを許可取得の条件にしました。
これにより、不安が緩和され取引先が建設業者に工事を発注しやすくなるのがこの制度の目的です。
この”財産的基礎や金銭的な信用がある”ことは、常時必要だということではなく、あくまでも申請の段階で一定の金額以上の資産があるかどうかで判断されます。建設業許可の許一般建設業許可と特定建設業の場合について条件が全く異なるので以下に分けて記載していきます。
(1)一般建設業の場合
一般建設業の場合では、次のいずれかの条件を満たすと”財産的基礎・金銭的な信用がある”と判断されます。
(a)直前の決算において、自己資本額が500万円以上であること
法人の方の場合、会社の決算書を確認すると「貸借対照表」というページの右下に「純資産の部」という項目があります。この「純資産の部」に計上されている数字が合計された「純資産合計」という金額がありますが、会社法人の建設業許可取得の際にはこの「純資産合計」を「自己資本」と読み替えることができます。つまり、現段階で確定している一番新しい決算の「純資産合計」が500万円以上になっていれば、財産的基礎の要件はクリアしているといえます。
一方、個人の場合の自己資本額の計算は少し複雑です。具体的には以下の計算式から算出します。
【個人の場合の自己資本額の計算式】
期首資本金+事業主借勘定+事業主利益-事業主貸勘定の額+負債の部に計上されている利益留保性の引当金及び準備金の額
算出した自己資本の額が500万円以上だった場合には財産的基礎の要件はクリアしているといえます。仮に500万円を下回ってしまった場合、次の(b)金融機関の預貯金残高証明書(残高日が申請直前4週間以内のもの)等で、500万円以上の調達能力を証明できることを証明する必要があります。
(b)金融機関の預貯金残高証明書(残高日が申請直前4週間以内のもの)等で、500万円以上の調達能力を証明できること
直近の決算書で純資産が500万円以下だった場合、”500万円以上の資金調達能力”があるとして、許可申請時に法人や個人事業主名義の金融機関口座に500万円以上の預貯金が確保されているか、または担保とする不動産がある等で金融機関から500万円以上の融資を受けることができることを証明することで”財産的基礎・金銭的な信用がある”とされます。
具体的には預金残高証明書や融資可能証明書、固定資産税納税証明書又は不動産登記簿謄本などで証明していきます。この”500万円以上の預貯金”が必要なのは「基準日」という預金残高の計算日の時点です。証明書の作成後に残高が500万円を若干下回ったとしても許可の可否に影響はありません。その代わり東京都であればこの基準日が申請直前4週間以内であることがもとめられます。
また、複数の口座に分かれている場合は、全部同じ証明日であることが必要です。異なった日付でも良いとしてしまうと例えばA銀行で300万円の残高証明書を発行し、その後B銀行にその資金を移して残高証明書を発行することで500万円以上の資金があるように思わせることができてしまうからです。
(c)許可申請直前の過去5年間許可を受けて継続して営業した実績を有すること(更新許可の場合)
過去に5年間以上継続して許可を受けて営業している事業者は、建設工事の請負について一定以上の資産を維持していると推測されます。このため、更新の場合、5年以上継続して許可を維持していれば上記のような条件をクリアしていることを証明しなくとも財産的基礎の要件をクリアしていると見なされます。
(2)特定建設業の場合
特定建設業許可の場合、工事の規模が一般建設業よりも大規模になるため”財産的基礎や金銭的な信用がある”と認められるための条件は非常に厳しく、複雑なものになっています。具体的には以下の条件全をクリアする必要があります。
① 欠損の額が資本金の額の20%を超えていないこと
② 流動比率が75%以上であること
③ 資本金の額が2,000万円以上あること
④ 自己資本の額が4,000万円以上あること
計算のもとになる貸借対照表は申請時直前の確定したものを使用します。それぞれについて簡単に見ていきます。
① 欠損の額が資本金の額の20%を超えていないこと
「欠損の額」は法人の場合と個人の場合で若干計算に用いる項目が異なります。
法人の場合、”欠損の額”は賃借対照表の繰越利益剰余金が負である場合に、その金額が資本剰余金と利益準備金、繰越利益剰余金を除くその他利益剰余金の合計額を上回る金額のことを指します。
この欠損の額÷資本の額×100で算出したものが欠損比率で、これが資本金の額の20%を超えていないことが必要です。
繰越利益剰余金がある場合や、内部留保(資本剰余金(資本剰余金合計)、利益準備金及びその他利益剰余金(繰越利益剰余金を除く。)の合計)が繰越利益剰余金のマイナスの額を上回っている場合にはそもそも欠損が生じていないためこの条件は計算するまでもなく満たしていると言えます。
個人の場合、”欠損の額”は事業主損失がある場合に、その金額が資本剰余金と利益準備金、繰越利益剰余金を除くその他利益剰余金の合計額を上回る金額のことを指します。
法人の場合と同様に、この欠損の額÷資本の額×100で算出したものが欠損比率になりこれが資本金の額の20%を超えていないことが求められ、事業主損失がない場合、いいかえれば決算が赤字でなければ要件を満たしている事になります。
個人の場合は決算期が未到来の場合のみ、4,000万円以上の預金残高証明書又は融資証明書を提出することでこの条件をクリアしていると判断されます。
「流動比率」とは、流動資産を流動負債で割って算出する会社の短期間の支払い能力を判断するための目安になります。
計算に用いる流動資産や流動負債の額は決算報告書の数字を使用すれば良いため、簡単に説明すると流動資産とは短い期間で現金にすることが可能な資産を指し、流動負債は1年以内に返済または支払いをしなければならない負債のことを言います。
特定建設業の場合に”財産的基礎や金銭的な信用がある”と認められるためには (流動資産合計÷流動負債合計)× 100で算出した 流動比率が 75 %以上であることが必要になります。
法人、個人ともに提出する財務諸表に記載した資本金の額が2,000万円以上あることが必要です。
法人、個人ともに提出する財務諸表に記載した自己資本の額が4,000万円以上あることが必要です。ここでいう”自己資本の額”は前述のように法人の場合であれば「純資産合計」、個人の場合であれば自己資本額の計算式により算出した金額になります。
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